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第1 改正の経緯

1

破産法改正の目的

平成16年5月25日、改正破産法は成立し、6月2日公布されました(平成16年法律第75号)。施行日は公布日から約1年以内位とされています。
平成8年から法制審議会において倒産法全般の見直し作業が開始され、不況の深刻な悪化を受けて、立法のスピードはあがり、平成11年の民事再生法の制定(平成12年施行、和議法は廃止)を皮切りに、平成12年に、個人版民事再生手続の創設(平成13年施行)、国際倒産法制の整備(平成12年制定。以降順次改正)、平成14年に会社更生法の全面改正(平成15年施行)等が行われました。
今回(平成16年)の破産法改正は、破産手続の迅速化、合理化、公正の確保、実効性を実現するために、なされたものです。

 
2

改正破産法の構成

旧破産法が実体規定、手続規定の編別になっていたのを改め、民事再生法や新会社更生法と同様に、手続の流れにそった規定ぶりになっています。

 
3

破産法の改正項目は、大きくわけて、
(ア)破産手続、(イ)個人破産と免責、(ウ)倒産実体法、
(エ)倒産犯罪、(オ)倒産手続間の移行、に分けられます。
以下、今回改正された点を中心に、改正破産法の要点を概説します。

 

第2 破産手続に関する改正

1

破産手続開始

旧法の「破産宣告」という言葉を、他の倒産手続と同様に、「破産手続開始」という用語に改められました。「宣告」という言葉には重い響きがあり若干時代遅れであること、他の倒産手続と合わせる意味で、用語を改めたものです。

 
2

破産手続開始の申立

(1)

管轄
管轄裁判所の拡大が図られました。
親子会社(5条3項・4項)、連結親子会社(5条5項)、 法人代表者(5条6項)、個人連帯債務者及び主債務者と保証人の関係にある個人・夫婦(5条7項)
これらの関係にある会社ないし人が他の裁判所に倒産事件が係属しているときには、競合管轄が認められました。これらの規定については対象となる異種の倒産手続の違いがあります。すなわち、親子会社関係は破産・民事再生・会社更生手続を網羅していますが、法人代表者の場合には法人が破産・民事再生のとき、個人連帯債務者・夫婦は破産のみに限られています。もっとも、個人連帯債務者・夫婦の場合、自然人については、会社更生手続はそもそも適用がありません。
債権者多数の事件については、以下のとおり、管轄裁判所の拡大が図られました。
債権者500人以上の場合には、高等裁判所所在地を管轄する地方裁判所(札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、広島、福岡、高松)にも管轄が認められました(5条8項)。
債権者1000人以上の場合には、東京地方裁判所または大阪地方裁判所にも管轄が認められました(5条9項)。
これらの管轄により、事案の処理に適切な裁判所の選択が可能となり、また、専門的処理体制の整った大規模庁(高等裁判所所在地の地方裁判所)または東京地方裁判所および大阪地方裁判所の利用が可能となり、破産手続の円滑な進行に資するものです。

(2)

保全処分
[1] 強制執行等の中止命令(24条)
改正法は、破産債権や財団債権に基づく強制執行等の場合にも、中止命令を発令できると制度を新設しました。
新設された規定です。民事再生法、会社更生法には同様の規定がありましたが、旧破産法には規定がありませんでした。

[2] 包括的禁止命令(25条)
強制執行等を包括的に禁止する命令です。
新設された規定です。民事再生法、会社更生法には同様の規定がありましたが、旧破産法には規定がありませんでした。
禁止命令の対象は、破産債権だけでなく、財団債権に基づく強制執行・一般先取特権の実行、国税滞納処分を含みます(国税は滞納処分より1年前のものは財団債権となります)。

[3] 保全管理命令(91条)
保全管理命令を発令できるのは、債務者が法人の場合に限定されています。 個人の場合には、事業用財産と家事用途のものと区別が難しいなどの理由から、保全管理命令の対象から、個人を除外したものです。もっとも、魚市場の仲卸売商人のような営業権があり、破産するとその営業権が喪失する場合の個人について、破産前に換価するために保全管理命令を発令できないという立法上の欠陥が残されてしまいました。

[4] 否認権のための保全処分(171条、172条)
破産手続開始がされた後に破産管財人が否認権を行使するための保全処分で、旧破産法にはなく、改正法で新たに認められたものです。
 
3

破産手続開始の効果

(1)

破産者等の説明義務の強化
旧破産法でも破産者等は説明義務を負っていました(旧153条)。この点は、改正法でも変わりません(新法40条)。 改正法により、説明義務を負うものが、従業者・元従業者にも拡大されましたが、裁判所の許可のある場合に限定されています(40条1項5号・2項)。

(2)

重要財産開示義務(41条)
債務者は、重要な財産について、申立にあたって、開示する義務を負い、書面に記載して裁判所に提出しなければなりません。もっとも、旧法でも、同様の運用がなされていました。
なお、個別執行である民事執行法では、一定の債務名義を有する者に対して、財産を開示する制度を設けています。

(3)

説明義務違反罪が重罰化(268条・269条。旧法の懲役1年から改正法では懲役3年へ改正)され、破産者等の説明義務の強化が図られています。

(4)

破産管財人の職務執行の確保
裁判所の許可に基づく警察上の援助(84条)、職務妨害罪(272条)が新設されました。
これらの制度は、破産管財人の業務を円滑ならしめるためであり、破産管財人にとっては、朗報です。個別執行である民事執行法では、執行官に対する同様の保護があったのに、包括執行である破産手続では旧破産法では破産管財人に対する保護がありませんでした。
 
4

破産債権等

(1)

債権者集会の任意化
財産状況報告集会が省略できる場合が規定されました(31条4項)、破産管財人の計算報告集会が省略できる場合が規定されました(89条)
債権者集会の必要的決議事項としては、
___ 破産者の扶助料の支払いの可否(旧192条1項)
___ 事業の継続の可否(旧192条1項)
___ 高価品の保管場所の指定(旧192条2項)
___ 監査委員の選任(旧170条)
___ 破産管財人の解任(旧167条)でした。
高価品の保管場所の指定は、裁判所によることとなりました(改正破産法規則)。
破産者に対する扶助料の制度、監査委員の制度は、そもそも制度自体が廃止されました。
改正法では、事業継続は、裁判所の許可によることとされました(36条)。
改正法では、破産管財人の解任は利害関係人の申立て又は職権により破産裁判所が判断することとなりました(75条2項)。

(2)

債権者委員会制度の創設(144条以下)
監査委員制度が廃止されたことにより、債権者の利益保護のために新設されたものです。

(3)

債権届出
異時廃止見込みの場合の債権届出期間、債権調査期間の定めの省略ができるようになりました(31条2項・3項)。旧法下の大坂地方裁判所での運用をもとにしたものです。
ただし、東京地方裁判所では、異時廃止の見込みが判明するには時間がかかることから、この方式は採用しない予定です。旧法下での東京地方裁判所の運用は、債権調査期日において、異時廃止の見込みのときは、債権調査を留保して、ただちに異時廃止決定をなすことによって対応していました。したがって、新法下でも、この方式が運用上、使われる可能性が高いものと思われます。

(4)

届出期間の制限
債権届出は、原則として、一般調査期日・期間内(112条)に限られます。
 
5

債権調査

(1)

債権調査期間の制度が設けられたことにともない、債権調査期日において調査する方式と、書面による債権調査期間の方式のいずれかを選択できるようになりました(116条1項・2項)

(2)

債権確定
異議ある債権を決めるために、決定による債権査定決定手続が導入されました。旧法では、異議のある債権の確定のためには破産債権確定訴訟という訴訟手続によっていました(旧244条以下)が、時間・費用がかかるという批判がありました。新法は、査定手続により、簡易・迅速に債権の有無・金額を決定することを目的としたものです。
査定申立期間が限定されています(125条)。旧法では、破産債権確定訴訟を提起するのに時期的制限はありませんでしたが、新法では、査定申立の出訴期間を限定することにより、破産債権の確定をすみやかにすることとしました。
破産債権査定の決定に対して異議のあるものは、破産債権査定異議の訴え(126条以下)を提訴することができます。
 
6 労働組合等の手続関与

労働者保護のために、破産手続開始決定の通知(32条3項4号)、破産管財人の情報提供努力義務(86条)の制度が設けられました。
 
7

破産財団の管理

(1)

破産管財人の貸借対照表作成義務
破産管財人は、原則として貸借対照表などの作成義務を負いますが、一定額以下の破産財団しかない場合には、破産管財人は、貸借対照表の作成義務を免除されます(153条3項)。

(2)

財団財産の引渡命令
財団財産の引渡命令(156条)は、破産者に対して決定による手続で、破産財団に属する財産を引き渡すことを命じるもので、新たに設けられたものです。
旧法では、破産者が破産財団に属する財産を引き渡さない場合に、破産宣告決定を債務名義として強制執行できるかについては、解釈上争いがあり、東京地方裁判所執行部の見解では、破産宣告決定には執行すべき財産の特定がないので、破産決定を債務名義として強制執行することができないとする見解をとっていました。しかしながら、包括執行である破産手続で、個別に債務名義を要するとすると、その実効性が著しく薄れます。そこで、破産手続を実効的かつ迅速にするために、この規定が設けられたものです。

(3)

破産管財人の行為の許可
破産管財人が訴えの提起など一定の行為をするためには破産裁判所の許可が原則として必要です(78条1項)が、例外として、破産裁判所の許可に関する裁量(78条2項15号、3項)の規定が新設されました。

(4)

法人の役員の責任の査定手続
法人の役員の損害賠償責任査定制度の導入(178条以下)は、簡易迅速な手続で、法人の役員についての損害賠償責任を追及する制度を設けたものです。すでに他の倒産法(民事再生法、会社更生法など)では、導入済みの制度でしたが、旧破産法では、同様の制度がなく、訴訟によるしかなかったため、破産手続の迅速化を図るため、新設されたものです。
 
8

破産財団の換価

(1)

任意売却・担保権消滅請求制度(186条以下)
消滅許可申立て(186条。財団組入れを含む=組入れ額の協議義務、売得金の意義=186条1項1号参照)
破産財団の形成を図る利益と担保権者の利益の調節を図るために、破産管財人は担保権者と事前に協議する義務を負います(186条2項、3項7号)。また、担保権者の利益を不当に害する担保権消滅許可申立は却下されます(186条1項但し書き)。
担保権者による対抗措置としては、以下の2つの方策があります。
[1] 担保権実行申立て(187条。合意による排除)、
[2] 担保権者の買受申出(188条。破産管財人が許可申請した売買代金額の5%の増価の必要があります)→消滅許可決定(189条)→金銭納付・登記抹消嘱託(190条)→配当実施(191条)

(2)

商事留置権の消滅請求(192条)
商事留置権とは、商行為によって生じた債権に基づき、商人(典型例は会社です)が占有する物品等をとどめ置いて、その物品等から優先的に債権の弁済を受けられる権利です。
破産管財人による商事留置権の消滅請求は、「当該財産が継続されている事業に必要なものであるとき、その他財産の回復が破産財団の価値の維持又は増加に資するとき」に認められます。
 
9

配当手続

(1)

配当公告に代わる通知の制度(197条)
旧法では配当をする場合には官報公告を必要としていました(旧260条)が、改正法は通知をもって代えることができるとしています。

(2)

別除権者の配当参加
[1]被担保債権が担保されなくなったことによる配当参加(108条1項、198条3項)
旧法と同様の配当参加の方法です(旧277条参照)。
[2]根抵当権の特則(196条3項、198条4項)
旧法では、根抵当権の極度額を超える額についても配当の可能性があることを理由として、別除権の実行処分又は放棄がなされない限り、根抵当権者の配当加入は認めないのが実務の取扱いでしたが、新法は、極度額を超える額については、当然に配当参加できると規定しました。

(3)

少額配当の特例
配当額が1000円未満の少額配当については、受領意思の届出が必要となります(111条1項4号、201条5項)。

(4)

簡易配当の特例
[1]簡易配当
簡易配当ができる場合として、以下の場合が定められました。
(ア)配当額の合計が1000万円未満の場合(204条1項1号)
(イ)破産手続開始時に異議の有無を確認してする場合(同条1項2号)
(ウ)配当時に異議の有無を確認してする場合(同条1項3号、206条)、
[2]簡易配当の内容(204条、205条)
(ア)債権者への周知方法を、旧法では官報公告をも必要としていたのを廃止し、個別通知に限定しました。官報公告が実務上数週間かかっており、しかも、実際上官報を見る債権者が殆んどおらず、かつ、官報への配当公告は2万7525円を要していたため、時間・労力・費用の無駄との批判があったことによります。
(イ)除斥期間を旧法の2週間(旧273条)から1週間に短縮しました。
(ウ)配当表に対する異議申立についての即時抗告を許さないこととしました。
(エ)配当額を定めた場合の債権者への個別通知を省略できることとしました。

(5)

同意配当(208条)
 

第3 個人破産に関する改正

1

自由財産

自由財産とは、破産手続の対象とならず、破産者が自由に処分してよい財産をいいます。
個別執行の民事執行法での差押禁止財産に対応するものです。
自由財産となる金銭の範囲が拡大されました(34条3項1号。差押禁止金銭の1.5倍=99万円)。旧法では民事執行法131条3号が当時の政令で定めていた21万円と解釈されていました。
自由財産範囲拡張の裁判(同条4項)の制度が新たに設けられました。

 
2

免責制度

(1)

破産手続開始の申立と同時に免責申立が可能であると法律上明記されました(248条1項)。

(2)

みなし申立て(248条4項)は、破産手続開始の申立があったときは、反対の意思表示がない限り、免責の申立がなされたものと擬制することをいいます。新法で新たに設けられました。

(3)

免責手続中の個別執行禁止(249条)
免責手続中は、非免責債権を含めて、全面的に個別執行等が禁止されます。旧法では免責手続中は個別執行が可能であった点(最判平成2年3月20日民集44巻2号416頁)について破産者の保護に欠けるとの批判があったため、新法で設けられました。


(4)

免責調査方法の任意化・管財人による調査(250条)
免責不許可事由の調査方法などが簡素化・合理化されました。
[1]破産者の調査協力義務の新設(250条2項)
[2]審尋期日の任意化
[3]債権者の異議制度を、意見申述制度(251条)に改めました。
免責手続中の強制執行禁止(249条) 。

(5)

免責の裁判
[1]裁量免責の明確化(252条2項)
旧法でも、免責不許可事由があっても、裁判所の裁量による免責ができると解するのが通説でしたが、これを明確化したものです。
[2]免責不許可期間の短縮(旧法の10年間から7年間へ短縮しました)(252条1項10号)。

(6)

非免責債権の拡大
旧法では免責対象となっていた以下の一定の債権(ただし故意ある不法行為債権については旧法でも非免責債権であった。旧法366条ノ12第2号)については、債権者の保護に欠けることを理由に、新たに、非免責債権に加えられました。
[1]生命身体関係の故意・重過失の不法行為(253条1項3号)
[2]扶養料(同条項4号)
 
3

相続財産破産

破産手続開始申立後開始決定前の債務者の死亡の場合、続行決定制度が新設されました。続行申立てのない場合には、破産手続が終了します(226条)。

 

第4 倒産実体法に関する改正

1

賃貸借契約

(1)

賃借人の破産
民法621条が削除され、破産した賃貸人からの解約申入れはできなくなりました。
賃借人が破産したときは、賃借人には、何ら責めに帰すべき事由がないにもかかわらず、賃貸人からの解除を認める民法621条の適用があるとすると、賃借人に酷であることが理由です。

(2)

賃貸人の破産
[1]対抗可能な賃借権についての解除の禁止(56条。なお、対抗要件を具備したライセンスも同様)、
[2]賃料債権の処分の期間制限(旧63条)・相殺制限(旧103条)が廃止されました。また、賃借人が賃貸人(破産者)に差し入れた敷金は、破産管財人に対する寄託請求(70条)により保護されます。
なお、民事再生手続・会社更生手続では、賃料による相殺は6ケ月分を限度に認める(民再92条2項)、敷金については賃料6ケ月分を限度に共益債権として保護(同条3項)
 
2

相場がある商品の取引(58条)

デリバティブ取引に対応

 
3

租税債権

財団債権の範囲の限定 法定納期限から1年以内のもの(148条1項3号)を財団債権とし、それ以外は優先的破産債権(その付帯税は劣後的破産債権)とする改正が行われました。これは租税債権の優先順位を一部繰り下げたものです。旧法では、租税債権の弁済しか行われない異時廃止事件が、法人の破産事件の過半数、自然人の破産事件の圧倒的多数を占めており、次順位の優先的破産債権であった労働債権すら配当がなされませんでした。このような事態に対しては、批判が強かったため、租税債権の一部の順位を繰り下げ、労働債権の一部の順位を財団債権に格上げすることによって、労働債権の保護を図ろうとする目的に基づくものです。

 
4 労働債権

倒産3ケ月前の給料債権および退職金債権(3ヶ月間の給料相当分)を財団債権に格上げしました(149条)。これによって、労働者の保護を手厚くしようとするものです。 優先的破産債権となる労働債権の弁済許可制度(101条)が新設されました。財団債権の場合には、随時弁済の対象となります(151条、152条)が、この制度は、優先的破産債権に過ぎない労働債権についても、随時の弁済を認めようとするものです。旧法では、配当の対象となる場合でも、他の破産債権と同時に配当が実施されるため、配当を受けるまでの間、労働者が困窮する事態が見受けられましたが、この制度により、労働者保護につながります。
 
5 約定劣後債権(劣後ローン)

劣後的破産債権に後れる合意のある債権は、劣後的破産債権に劣後すると定められました(99条2項)。
 
6 財団債権

財団不足の場合には管理費用等が優先することが定められました(152条)。
財団債権について、強制執行等の禁止・中止、滞納処分の禁止(42条1項2項)の規定が新設されました。財団債権については無制限で行使できるのではないかという解釈上の疑義があったので、新設されたものです。
 
7 物上保証人

物上保証人が主たる債務者等に対する求償権を行使する前提として、債務全額の弁済が必要です(104条5項)。旧法でも、同様に解されていました(最判昭和62年7月2日金融法務事情1178号37頁、最判平成14年9月24日民集56巻7号1524頁)。改正法は、最高裁判例を明文化したものです。
 
8

否認権

(1)

否認権の規定の整理
否認権については、旧法下で、判例・学説上、解釈上の争いがありました。そのため、新法は、否認権の規定を整理し、否認できる場合を明確にしました。

(2)

詐害否認の要件(160条)
[1] 故意否認(160条1項1号)
旧破産法72条1号と同旨の規定です。
[2] 危機時期後の否認の容認(160条1項2号)
旧法では、支払停止以降のいわゆる危機時期について詐害否認が許されるか、解釈上、争いがありました。判例は、これを認めていました(大判昭和7年12月21日民集11−2266、最判昭和42年5月2日民集21巻4号859頁)。
そこで、新法は、許されることを明確化したものです。
[3] 代物弁済等のうち対価的均衡を欠く部分のみが詐害否認の対象となることを明確化(同条2項)
旧法では、相当な対価を得て代物弁済等をした場合に否認権の対象となるか、解釈上、争いがあり、また、対価的均衡を欠く部分のみが詐害否認の対象となるかが争いとなっていました。
そこで、新法では、この点を明確化したものです。
[4] 無償否認(同条3項)
旧72条5号と同旨の規定です。

(3)

適正価格処分行為の否認(161条)
適正な価格をもって処分した行為について否認権を原則として行使できないものと規定しました。旧法では、解釈上、争いがありました。新法では、
[1]財産の種類の変更による隠匿等のおそれ、
[2]破産者の隠匿等の意思、
[3]相手方の悪意がいずれもある場合にのみ、否認できると規定しています。

(4)

偏頗否認の要件(162条)
旧法72条2号以下では、偏頗行為の否認権の対象となる時期を、支払停止を基準時としていましたが、改正法は、これを改め、支払不能を基準時としています。
また、同時交換的行為は否認の対象外とする規定が新設されました。緊急時の救済融資などの同時交換的行為が否認権の対象となると解すると、救済融資などをしようとするものがいなくなってしまうので、改正法は否認権の対象外としたものです。

(5)

危機否認の時期的制限(166条)
旧84条では、破産宣告から1年以上前の行為は支払停止を理由に危機否認できないと規定していました。しかし、破産宣告を基準時としてしまうと、裁判所が破産宣告を遅延した場合などの偶然的な事情によって、否認できない不都合があるという批判がありました。そこで、新法では、この点を改めて、破産申立を基準時として、危機否認できない場合を区別しました。

(6)

詐害否認の効果(168条)
財団債権性を明定しています。ただし、隠匿等の意思につき相手方が悪意の場合は現在利益がある場合は現在利益返還請求権(財団債権)となり、ない場合は破産債権となります。

(7)

否認の請求(173条以下)
否認権を行使する場合、訴訟、否認の請求、抗弁をもって行使します(173条)。
否認の請求とは、疎明によって、簡易迅速に、書面審理によって、否認権の可否を決める決定手続です(174条)。旧法では、否認権行使訴訟などの訴訟または抗弁によってしか、否認権は行使できませんでした(旧76条)。会社更生法、民事再生法では、否認の請求により、簡易迅速に決定できる手続がありました。そこで、新法は、同様の制度を設けたものです。
否認の請求認容決定に対して不服のあるものは、異議の訴えを起こすことができます(175条)。

(8)

否認の登記(260条)
任意処分の場合の登記職権抹消(2項)

(9)

否認権のための保全処分(171条・172条)
 
9

相殺権

(1)

破産債権者の債務負担に係る相殺禁止(71条)
おおむね旧法の相殺禁止規定(旧104条1号、2号)と同旨ですが、新設された部分もあります。
新設された規定、支払不能基準(71条1項2号、[1]財産処分による契約上の債務負担、[2]債務引受)を基準時として、相殺禁止となる場合等があります。

(2)

破産者に債務を負担する者の破産債権取得に係る相殺(72条)
おおむね旧法の相殺禁止規定(旧104条3号、4号)と同旨ですが、新設された部分もあります。
新設された規定として、支払不能基準(72条1項2号)を基準時として、相殺禁止となる場合等があります。
新設された規定として、相殺禁止の例外(相殺できる場合)として、破産者の債務者と破産者との間の契約による債権取得の例外(2項4号)が設けられました。

(3)

破産管財人の催告権(73条) 破産管財人から催告することによって相殺に期間制限を設けるものです。旧法では、相殺は期間的制限がなく無制限で認められていましたが、債権債務の早期確定のために、新法はこれを改めたものです。

(4)

破産管財人による相殺(102条)
旧法では、破産管財人からの相殺は、特定の債権者のみを利するので、許されないと解するのが多数説でしたが、新法では、債権債務関係を早期に確定する利益のために、破産管財人からの相殺を認めました。
 

第5 倒産犯罪に関する改正

1

破産法改正の目的

倒産犯罪について処罰範囲を拡大する規定を新設したり、明確化する改正がなされました。

 
2

詐欺破産罪(265条)

破産手続開始決定があったことを客観的処罰条件として維持しています。 処罰対象行為を拡大しました。

 
3

破産管財人の特別背任罪(267条)

 
4 特定債権者に対する偏頗弁済罪(266条)
 
5 破産者等に対する面会強請罪(275条)
 
6 国外犯処罰規定(276条)
 
7 両罰規定(277条)
 

第6 倒産手続間の移行に関する改正

1

移行規定の整備

民事再生法、会社更生法に規定されています。

 
2

以下は、民事再生手続から破産手続へ移行した場合です。

(1)

民事再生手続開始決定があった場合の破産事件の移送(民再248条)

(2)

牽連破産の場合の手続開始(申立て)の規律(民再252条)

(3)

破産債権届出の流用(民再253条)

(4)

否認・民事再生債権査定等の裁判の受継等(民再254条)
 
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