村田法律事務所
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建設業の清算手続で
気を付けたい法務・税務の対応
 

ポイント
 1、破産手続の概要
 2、建設業者に倒産されてしまった場合の施主の対応
 3、一次下請業者に倒産された場合の二次下請業者の対処法
 4、否認権及び詐害行為取消権
 5、税務のポイント

はじめに

2002年の企業倒産は約1万9087件(商工リサーチ調べ)である。うち清算型手続(破産と特別清算)は約5664件であり、再建型手続(民事再生手続、会社更生、会社整理)は約942件に過ぎず、企業倒産のうち、法的手続を取ったものは、約35%に過ぎない。また、倒産件数が多い割には、再建型手続の利用件数が非常に少なく(再建型は倒産件数の約5%。法的整理のうち約14%)、企業の再建が難しいことを物語っている。
したがって、残りの大部分は、任意整理ではないかという意見もあるが、実際上は、法的手続を取るだけの資力もないので、夜逃げ、放置という事例が少なくない。
建設業の倒産件数に歯止めがかからない。倒産件数や法的手続を取った場合の建設業の全倒産件数に占める割合は、過去10年間を見ても、常に約3割を占めており、倒産しやすい業種である。
建設業には、ピラミッド型構造のため連鎖倒産の倒産パターンも多い。特にゼネコンの下請け業者は、元請けが倒産すると、代金を支払ってもらえず、倒産するケースが多い。
また、赤字受注や工事代金の値切りのため、赤字を出してしまい、資金繰りに窮する倒産パターンも多い。特にゼネコンの下請工事では、下請業者が出した見積金額に対して元請け業者は「半値8がけ2割引き」(要するに見積金額に対して、実際の請負代金額は3分の1になってしまう)という値切りをしてくる。このような赤字受注をして、なおかつ、労賃を最低限確保しなければ人工は手配できないから、支出を抑えることができない。また、近年の公共工事削減、不況のための民間工事受注の減少により、建設業は構造不況型の業種といってもよい。
このような状況の下で、建設業の清算型手続について論じる意義がある。
清算型手続には、法的手続と私的整理がある。法的手続には破産と特別清算の2つの手続がある。よく利用されるのは、破産手続である。
特別清算は、清算案について、債権者集会への出席債権者の過半数かつ総債権額の4分の3の同意が必要なので(商法450条1項)、少数の債権者しかいない場合に適している。特別清算は件数が少ないので、本稿では割愛する。

1

破産手続の概要

1. 破産
破産手続には、破産管財人を選任する方式と、破産管財人を選任しない方式(同時廃止)の2通りがある。 破産手続の流れは、フローチャートを参照されたい。

2. 破産の申立
(1) 申立権者
破産の申し立てることができる者については、大別して、自己破産と、債権者からの申立がある。民事再生手続が失敗に終わった場合には裁判所から職権で破産宣告される場合もある。

(2) 申し立てる裁判所
原則として、建設業者の本店所在地を管轄する地方裁判所であるが、現実の営業活動を行っているなど関連性のある管轄裁判所にも申し立てることができる。

(3) 申立費用
1. 破産予納金
東京地方裁判所の破産予納金は、別紙表のとおりである。結構多額に感じられるかもしれない。 ただし、予納金が少額の少額管財事件が東京地方裁判所破産再生部の約95%である。少額管財事件については後述する。 それ以外に官報公告費用がかかる(法人1万3457円、自然人1万6413円、同時廃止1万4170円)。 また、予納郵便切手が数千円かかる。 裁判所に破産申立書を出す際に貼る収入印紙は、自然人900円(免責分含む)、法人600円である。債権者申立の破産事件の場合の収入印紙は1万円である。

2. 申立代理人弁護士費用
破産申立を依頼する代理人弁護士の費用として、法人の場合、東京では標準的な事件では、最低50万円以上とされている。債権者の数の多寡、負債総額いかんにより、弁護士費用は上記金額よりも多額になるであろう。事件の内容や弁護士にもよるが、法人破産の場合には、100万円〜数百万円のことも多い。
破産管財人と破産申立代理人弁護士との違いは、破産管財人が中立公正な第三者として行動するのに対して、破産申立代理人弁護士は、破産申立人の味方である。この違いは一般 に思われているよりも大きな相違がある。例えば、破産者が資産隠匿をした場合には、破産管財人は厳しく追及するが、申立代理人弁護士は破産者をかばう姿勢をとる傾向にある。

(4)

申立書
破産申立書の記載事項は、

1
破産者の本店所在地
2
役員構成
3
株主(社員)構成
4
事業内容
5
事業の推移
6
資産の概要
7
負債の概要
8
支払停止又は支払不能(破産原因)の事実
9
多額の負債を負うに至った経緯
10
事業用施設の処理状況
11
在庫商品等の資産の処分状況
12
代表者印及び帳簿の保管状況
13
従業員の状況、労働組合の有無、解雇の有無、給料・解雇予告手当て・退職金の支払状況
14
任意整理の先行の有無
15
訴訟係属の有無

などである。
添付書類としては、以下のようなものが必要となる。

(ア)
商業登記簿謄本又は登記事項全部証明書
(イ)
破産申立代理人への委任状
(ウ)
破産申立についての議事録又は取締役の同意書
(エ)
債権者一覧表(一般 債権、優先債権、財団債権に分け、債権者の名称・住所・債権額を記載する)
(オ)
債務者(売掛先等)一覧表(債務の種類ごとに分類し、債務者の名称・住所・債務額を記載する。)
※なお、建設業特有の問題として、債権・債務の双方について
 言えることだが、出来高に応じて、債権・債務の金額が
 異なってくるので、ある程度、見込み額を記載せざるを得ない。

(カ)
財産目録
(キ)
貸借対照表・損益計算書(通 常3期分、東京地裁本庁は2期分で足りる)。法人税申告書控えに添付されている決算書で足りる。
(ク)
清算貸借対照表
(ケ)
不動産登記簿謄本(3カ月以内のもの)
(コ)
不動産物件目録(嘱託先法務局別 に作成したもの)
(サ)
賃貸借契約書
(シ)
預貯金通 帳
(ス)
自動車登録証明書
(セ)
会員権証書
(ソ)
有価証券(株券、受取手形・小切手など
(タ)
生命保険証書・解約返戻金計算書
(チ)
訴訟関係書類
(ツ)
退職金規程
(テ) 建設業に特有なものとしては、進行中の工事現場一覧表(所在地、施主、連絡先を記載したもの)が必要であろう。

3. 債権届出の方式
破産管財人を選任する方式では、債権届出をする(なお、同時廃止では、債権の確定すら行われないため、債権届出も必要ではない)。 債権届出期間内に債権届出をすべきだが、追完が許される。しかし、最後配当の除斥期間までに債権届出をしないと、配当から除斥される 。

4. 破産手続の実際
自己破産が破産新受件数(裁判所が新規に受理した破産の件数)の99%である。 法人等は破産新受件数の約5%である。

5. 破産手続に要する期間
破産既済事件のうち1年以内に終了したのが全体の92%であり、おおむね1年以内に終了している。ただし、このうちの大部分(約8〜9割)が個人の同時廃止事件と思われる。

6. 配当の有無、配当率
平成13年度の最高裁による司法統計によれば同年の破産既済事件(自然人、法人を含む)のうち約4%のみ配当が実施された。
株式会社の破産事件に限って言えば、約51%の事件で配当が実施された。そのうち、配当率は0〜5%までが、配当を実施した事件のうち53%を占め、5〜10%の配当率の事件の比率を合わせると、配当を実施した事件の70%を占めている。したがって、株式会社の破産事件のうち、半数は配当なし、半数で配当はあるが、配当率は0〜10%の場合が約7割である。したがって、倒産企業にひっかかっても、統計上、債権額の9割は回収の見込みがないと言える。
「配当の見込みがない」という破産管財人の説明に納得できないという債権者の気持ちも分からないではないが、以上に見たとおり、現実は非常に厳しいので、債権者としては、今後の推移を見守るしかない。
かといって、債権者が債権届け出もしないのであれば、配当が仮にあった場合でも、配当を受ける資格すら与えられないので、とりあえず債権届け出だけは提出しておいた方がよい。

7. 少額管財(東京地裁、千葉地裁)
一定の裁判所では、破産予納金が少額な事件を少額(小規模)管財事件と呼び、簡易迅速な手続として運用されている。
東京地裁の場合には、破産予納金20万円(関連事件であれば何件でも20万円)である。
ほかには、例えば千葉地裁の場合には、1名の場合20万円、法人+代表者の場合30万円である。横浜地裁などでも実施しているが、各地裁によって異なるので直接裁判所に問い合わせることが必要である。
それ以外に官報公告費用がかかることは前述したとおりである。また、予納郵便切手が数千円かかる。破産申立書を出す際に貼る収入印紙についても、前述したとおりである。

8. 労働者の未払い賃金の立て替え払い制度
従業員の賃金債権の回収に役立つ制度である。
労働基準監督署に行って、届出用紙をもらう。賃金の立替払制度は、労働福祉事業団が行うものである。破産管財人等から未払いの証明をもらい、倒産時から6か月間以内の未払い賃金の8割相当額(ただし金額の上限あり)を立替払いしてもらえる。解雇予告手当ては対象外である。

9. 建設業の破産手続きに特有な問題点
(1) 工事現場での混乱
破産申立直後には、建設業者が倒産したことで、施主又は元請け業者から工事を中止するよう言われ、または下請け代金を貰えない下請け業者が工事の継続を拒否したり、破産者所有の資材や重機を持ち去ったりする債権者などがいたり、非常に大きな混乱が起こる。
これらの事態に対処するためには、破産宣告前の保全処分を活用するか、東京地裁本庁のように破産宣告をできるだけ早く出してもらい破産管財人を選任して対処してもらうことしかない。

(2) 工事代金を値切られること
破産者に代わる工事業者を見つけて未完成工事を続行させるためには、以前よりも高い工事代金がかかる(要するに破産者が未払いとした下請け工事代金を支払ってやらないと、下請け業者が工事をしないため)ことを理由に、破産者の工事代金を大幅に値切られることが多い。
通常は出来高払いとして精算してくれるが、出来高の査定が非常に低い金額に抑えられ、恣意的ではないかと疑われる事例がある。その理由は前述したところと同じである。そのほか、諸経費(廃棄処分代金、手直し補修代金、弁当代、駐車場使用料、応援人工代等)と相殺してくる元請け業者が多い。
もっとも、工事が未完成であることを理由に工事残代金を一切支払わらない施主すら稀にはいる。 破産管財人としては、対応に苦慮するところである。出来高の査定については、弁護士は素人なので、元従業員の協力が必要である。
 
2

私的整理(内整理、任意整理)

私的整理においては不透明な処理が行われやすい。特に、建設業者の私的整理においては、倒産した建設業者が再起を願っている場合には、再起に協力してくれそうな業者にだけ支払をなし、それ以外の支払先は放置してしまうというケースが多い。ひどいケースでは資産を隠匿して再起を図る事例すら見受けられる。このような場合には、債権者は破産の申立を行うことによって対抗する。
また、資力がないために、私的整理を行う費用すらなくて、支払いを一切せずに、そのまま放置・夜逃げをしてしまう事例も多い。

 
3

建設業者に倒産されてしまった場合の施主の対処法

(1) 破産の場合
原則として営業を停止するので、工事未完成の場合には、工事続行を要求しても無理であろう。
仕事が未完成の間には、注文主は、請負業者に損害賠償をなしていつでも解除することができる(民法641条)。
建物その他土地の工作物以外については、瑕疵を理由に解除できる(民法635条)。建物等については、解除できない。瑕疵について損害賠償請求できるのみ。
破産法59条により、取引の相手方は、破産管財人が契約解除を選択するかの催告権がある。破産管財人が催告期限内に回答しない場合、解除した
ものとみなされる。破産は清算型手続だから、解除により清算しようとする趣旨である。

(2) なお、会社更生法の場合、更生管財人が、民事再生法の場合、再生債務者がそれぞれ原則として営業を継続して行くので、工事未完成の場合にも、工事を完成させることを要求できる。
会社更生法又は民事再生法でも、破産法59条と類似の規定があるが、取引の相手方が、管財人又は再生債務者に催告して回答がない場合、会社更生法・民事再生法では、契約の履行を選択したものとみなされる。会社更生法・民事再生法は再建型手続だから、営業の継続を前提としているので、契約の履行を選択したものとみなされるのである。

(3) 私的整理の場合
私的整理の場合には、清算型と再建型がある。
再建型では、工事未完成の場合には、仕事が完成するかどうか不安なので、民法641条により解除することができる。
清算型では、一般債権となり、配当が見込まれないし、工事も完成してくれないであろう。
工事未完成の場合には、倒産業者との契約を解除して、施主が下請け業者と直接、建築請負契約を締結し直して、建築工事を完成してもらう方法がある。

(4) 建築代金債権が他者へ債権譲渡された場合
建築請負代金が街の金融業者などへ債権譲渡される場合がある。施主としては、債権譲渡通知書がなければ正式に対応する必要はない。仮に債権譲渡された場合でも、建築が未完成や瑕疵(不具合)がある場合には、施主には代金減額請求権があるので、それをもって対抗できる。

 

 
4

一次下請業者が倒産した場合の二次下請業者の対処法

一次下請業者が倒産した場合の二次下請業者の対処法としては、以下のものが考えられる。
1. 倒産業者(下請業者)が孫請け業者に債権譲渡等をする場合
(1) 問題点
倒産業者が下請業者の場合、工事を続行してもらうために、孫請け業者に対して、元請け業者に対する工事代金債権を債権譲渡するケースがある。
また、債権譲渡によらずに、元請け業者、下請業者、孫請け業者の3者の合意により、契約上の地位の譲渡をするケースもある。

(2) 債権譲渡禁止特約
建設請負工事については、工事業者の信用力、技術力などの点で、属人的性格が強いので、通常、取引基本契約書で、債権譲渡禁止特約がついている。
したがって、債権譲渡をなし、対抗要件(民法467条)を備えたとしても、孫請け業者から元請け業者に対して対抗はできない。
ただし、元請け業者の側から、孫請け業者に対する債権譲渡を認めることは許される。

(3) 破産法の場合
破産法72条以下は、破産者(下請業者)が債権者(孫請け業者)と通謀して、工事代金債権を譲渡したような場合には、破産管財人は否認権により、債権譲渡を否認できる(破産法72条1号)。支払停止の後も同様である(破産法72条2号、3号)。
債権譲渡の対抗要件の具備が遅れた場合も同様に否認権の対象となる(破産法74条)。
したがって、破産管財人が否認権を行使した場合、孫請け業者は、債権譲渡を破産管財人に対抗できない。ただし、否認権の行使は訴え又は抗弁として行うこととされている(破産法76条)ので、孫請け業者としては、破産管財人が裁判を起こす前に粘り強く交渉することが必要となろう。

(4) 民法の詐害行為取消権との関係
破産手続が取られていない場合、民法上の詐害行為取消権の場合(民法424条)でも、破産法と同様に、債権譲渡が取り消しの対象となり得る。
この場合には、孫請け業者が支払をうけていれば、詐害行為の取消しを請求した下請業者の債権者に対して、工事代金の支払をしなければならない事態となってしまう。

2. 元請け業者が孫請け業者に立替払をする場合
(1) 建設業法の規定
建設業法41条2項では、特定建設業者である元請け業者に対して、下請業者が孫請け業者に支払ってくれない場合、孫請け業者は元請け業者に対して、工事代金の立替払を請求できる場合があることを認めている。
もとより、この規定は、行政上の規制であって、孫請け業者に対して、私法上の請求権を認めたものではないと解されている。
しかしながら、元請け業者としては、孫請け業者に立替払をしてやらなければ、工事を続行してもらえず、やむなく立替払をせざるを得ない場合がある。
元請け業者としては、取引基本契約書において、「孫請け業者から工事代金及び諸経費の立替払の請求があったときは、元請け業者は、下請業者に代わって立替払をすることができる。その場合には、下請代金と相殺する。」という条項を入れておくことが有用である。

(2) 破産の場合
この点、破産法104条で相殺が禁止されている場合があるために、立替払債権(求償権)と下請代金債権とを相殺することができるかが問題となる。
破産法104条4号では、破産者(下請業者)の債務者(元請け業者)が支払いの停止又は破産の申立があったことを知って破産債権(求償権)を取得したとき」には相殺が禁止される。したがって、支払停止又は破産申立の前に立替払し、相殺することは禁止されていない。
また、同条号には、但書きとして、「ただし、その取得が法定の原因に基づくとき、債務者が支払の停止もしくは破産の申立ありたることを知りたるときより前に生じた原因に基づくとき、又は破産宣告のときより1年前に生じたる原因に基づくときはこの限りにあらず」と規定している。この但書きによれば、支払停止等の前に、上記のような立替払条項を締結しておけば、「前に生じた原因に基づくとき」に該当し、相殺は許される。

(3) 民法の詐害行為取消権との関係
なお、民法には、同様の相殺禁止の規定がないが、仮に立替払債権と下請代金債権との相殺が詐害行為(民法424条)に当たるとして詐害行為取消権が行使された場合であっても、破産法と同様の考え方に基づいて、許されるであろう。
 
5

税務のポイント

1. 債務者側の対応
(1) 公租公課
倒産者は、法人税は失念することは少ないであろうが、源泉徴収所得税、消費税については忘れがちである。これらの税金は性質が預り金的なものであるから、課税庁は厳しい対応をしてくる。差押滞納処分を辞さないことが多い。
従業員の社会保険料についても、同様である。特に、社会保険料の優先順位は国税に後れると規定されているので、差押滞納処分をすばやくかけてくる傾向にある。

(2) 滞納処分
公租公課の滞納があると、工事代金債権について滞納処分がかけられ、そのため、建設業者は再起を図ることが不可能になってしまうことがある。筆者が経験した倒産事件では、1回目の手形不渡りの翌日か数日後には、差押滞納処分をかけてきた事例が少なからずあった。このようなことがあると、再起を図っている建設業者でも、清算型手続しか取るべき手段がなくなる。

(3) 仮装経理に基づく過大申告
実務上よく問題となるのは、倒産者が仮装経理に基づく過大申告をしていた場合である。建設業では経営審査があるため、また銀行融資を受けるために、粉飾決算が行われやすい。
仮装して経理をしたところに基づく申告をした場合、当該事業年度後の各事業年度の確定した決算において当該事実に係る修正の経理をし、かつ、当該決算に基づく確定申告書を提出して、税務署長に対し、申告後1年以内のものについては更正の請求をなし、申告後1年以前5年以内の分については嘆願により、更正決定(職権更正)を促すこととなる(法法129条2項)。
仮装経理に基づく過大申告については、国税通則法56条から58条まで(還付・充当等)の規定にかかわらず、当該更正の日の属する事業年度開始の日から5年以内に開始する各事業年度の所得に対する法人税の額から順次控除する(法法70条1項)。法人税額から控除することは、当該事業年度における法人税が納付されたものとみなされる(法令150条の4)。
破産手続の場合には、清算しかないので、順次控除するという手順を踏まずに、破産管財人は、直ちに過大納付した法人税を還付請求できると解されている。

(4) 保証債務の履行
倒産者の保証人となっている場合、債権者が保証債務の履行を求め、それに応じて、保証人が個人として所有している資産を売却する場合がある。
保証債務を履行するための資産の譲渡があった場合、求償不能となった金額が所得計算上なかったものとみなす所得税法64条2項の適用の可否が問題となる。
 その要件としては、
1
保証時に、主たる債務者が無資力ではなかったこと
2
譲渡代金の全部・一部が保証債務の履行にあてられたこと
3
保証債務の履行によって生じる求償権の全部・一部が行使できないこと
これらの要件にいずれも該当すれば、譲渡益は非課税となる。
また、保証人個人についても破産・民事再生手続等が係属していれば、資力喪失状態として、強制換価手続による資産の譲渡による所得は非課税となる(所得税法9条1項10号)。
なお、個人が保証債務の履行としてではなく、保証人でもないのに、単に私財を提供し、不動産を譲渡した場合には、当然、当該個人は課税されてしまう。

2. 債権者の税務
(1) 貸付金、売掛金その他の金銭債権については、税法は資産評価損を認めない(法法33条2項)。したがって、債権者側の債権の評価損は認められない。

(2) 個別貸倒引当金
政令で定める場合において、その一部につき貸倒れその他これに類する事由による損失が見込まれる金銭債権のその損失の見込額として各事業年度において損金経理により貸倒引当金勘定に繰り入れた金額については、当該繰り入れた金額のうち、当該事業年度終了の時において当該個別評価金銭債権の取立て又は弁済の見込みがないと認められる部分の金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額に達するまでの金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する(法令52条1項)。

(3) 破産の申立て(形式基準)
破産の申立てがあったとき(法令96条1項3号ハ)、当該個別評価金銭債権(当該個別金銭債権の額のうち、当該債務者から受け入れた金額があるため実質的に債権とみられない部分の金額及び担保権の実行、金融機関又は保証機関による保証債務の履行その他により取立て等の見込みがあると認められる部分の金額を除く)の100分の50を、個別貸倒引当金とする(法令96条1項3号)。

(4) 貸倒損失
(a) 金銭債権について回収が不可能となった場合には、貸倒損失として、損金の額に算入される(法法22条3項3号)。

(b) 法人について配当がない旨(異時廃止決定)又は配当がなされてもそれ以上の配当がない旨の決定(破産終結決定)がなされた場合、その事実の発生した日の属する事業年度において、金銭債権の貸倒損失として、損金の額に算入する(法基通9−6−2)。

(c) 自然人の場合には、免責決定があると一定の例外を除き、債務を支払わなくてもよくなる(破産法366条ノ12)から、同様に貸倒損失として損金計上できる。 C担保物がある場合には、担保物を処分した後でなければ、損金算入できない(法基通9−6−2)。

(d)

保証債務については、現実に履行した後でなければ、貸倒れの対象とすることはできない(法基通9−6−2(注))。

(5) 届出のない破産債権
会社更生法では、債権届出期間内に債権届出をしないと、更生計画認可決定があった時に消滅する(会社更生法241条)。これを失権効という。これを受けて、税法上も、更生計画認可決定のあった日に貸倒損失として処理することができる(法基通14−3−12)。
破産手続の場合は、原則として失権効はないので、債権届出がなかった債権を貸倒損失として処理できるであろうか。法基通14−3−12のような通達はないので、問題となる。
破産手続では、最後配当の除斥期間内に届出がない場合には、配当から除斥されるから(破産法261条参照)、届出のない破産債権は弁済を受ける余地がなく、貸倒損失として計上できるであろう。

(6) 税法の取り扱いは上記のとおりであるが、前述したとおり、破産の場合には統計上は債権額の9割はほぼ確実に回収不能である。 なお、税法では、債権者が債権放棄を書面ですれば貸倒損失として認めるため(法基通9−6−1(4))、配当のある破産事件でも、早期に損金処理したいがために、破産管財人あてに債権放棄の内容証明郵便を送りつけてくる債権者が少なからずいる。個人的には、10%以下の配当でも、配当がないよりはましではないかと思われる。しかし、損金計上できる税法上のメリットと、配当金を実際に受領できる金銭上のメリットと、どちらが債権者にとって得なのか、考えさせられる。 かかる実態に照らすと、貸倒損失を容易に認めない税法の規定は見直すべきである。破産の場合には、ただちに貸倒損失計上を認めて、その後、仮に配当を受けた場合には配当金を益金として計上すべきこととすれば足りるのではないかと思われる。

3. 租税債権(課税庁から見た場合)
(1) 破産宣告前に滞納処分に着手した場合
破産法71条1項は、破産宣告前に滞納処分をしたときは、破産宣告後もその滞納処分を続行することができると規定している。

(2) 破産宣告後
しかし、破産宣告後は新たな滞納処分ができないと解されている(最判昭和45年7月16日・民集24巻7号879頁)。破産法71条の反対解釈として、破産宣告後は、破産財団に属する管理及び処分をなす権利は破産管財人に専属し(破産法7条)、否認権の行使は破産管財人に専属し(破産法72条以下)、租税債権は財団債権として破産手続によって弁済される(破産法47条2号)からである。

(3) 詐害行為取消権
国税通則法42条で、国税債権について、民法の債権者代位権(民法423条)、詐害行為取消権(民法424条)の規定を準用している。
債権者に対して、倒産者の売掛金債権等を譲渡してしまう場合に、課税庁が詐害行為取消訴訟を提起することが考えられる。
詐害行為取消権は、倒産法上は、類似の性質のものとして、否認権として規定されている。
破産管財人がついていると、破産債権者は詐害行為取消訴訟(民法424条)を提起することができない。
また、租税債権者も詐害行為取消権を有しているが(国税通則法42条)、破産宣告後は新たな滞納処分ができないこと(前記最判昭和45年7月16日)との関係で、課税庁が詐害行為取消訴訟を提起することはできないと解される。
なお、大判昭和5年11月29日・民集9巻1093頁は、破産宣告後も租税債権者は詐害行為取消訴訟を提起できるという判旨であるが、前記昭和45年最高裁判例により黙示的に変更されたものと見られる。
破産宣告前に詐害行為取消請求訴訟を提起していた場合には、破産宣告により訴訟は当然に中断し、破産管財人は受継してもよい(破産法69条1項)し、詐害行為取消請求訴訟を受継せずに、破産管財人が別途、否認権行使訴訟を新たに提起することも許される。

(4) 任意整理の場合
任意整理においては、その効力の根拠は当事者間の合意以外になく、したがって、債権者会議や債権者委員会の議決に加わっていない債権者に対してはその議決は効力がない(最判昭和51年11月1日・金融法務事情813号39頁)ので、任意整理に同意又は関与しない債権者は、強制執行、民事保全処分、破産の申立等の手段を取り得る。公租公課については、当然、滞納処分を自由に行うことができる。
任意整理では、債務者が任意整理代理人へ売掛金債権等を債権譲渡した場合に、その債権譲渡が詐害行為に該当するのではないかと争われた事例がある。
倒産会社が、任意整理の配当原資を確保するために任意整理代理人へ売掛金債権が信託的に譲渡された事案について、国税債権者が、当該譲渡が詐害行為にあたるとして詐害行為取消訴訟を提起したところ、詐害行為に該当するとされた(東京地判昭和61年11月18日・訟務月報33巻7号1863頁、判例タイムズ650号185頁及びその控訴審たる東京高判昭和62年5月27日・判例集未登載(判例評釈、野崎守・民事研修367号30頁)及びその上告審たる最判平成2年4月26日・判例集未登載(判例評釈、山岡千秋・税経通信54巻4号223頁))。
なお、任意整理について、一般債権者が原告となって詐害行為取消訴訟を提起したが、詐害行為に該当しないとして、請求が棄却された事例がある(東京地判平成10年10月29日・判例時報1686号59頁)。
国税債権は、一般債権よりも優先権があるのだから、破産手続と異なり、任意整理においては、原則として詐害行為取消権が認められると解される。
 
注)

●倒産法全般の概要については、「倒産・再生」を参照。

●民事再生法の税務については、
 拙稿「総整理 税理士のための民事再生法の税務」
 『月刊税理』平成14年12月号175頁以下を参照。

●また、民事再生法全般については、
 拙著『破産か再生か――中小企業のための民事再生法活用の手引き』
 (花伝社、平成14年)を参照。

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